患者は、IVF‐ET(ICSI)により二絨毛膜二羊膜性双胎
妊娠が成立した方である。
多胎妊娠は
ハイリスク妊娠であり
流産・
早産が起こりやすく、本症例のようなIVF‐ETによる双胎の場合、周産期死亡率(
妊娠22週以降)は3.15%となっている。これは単胎の2倍程度である(1)。双胎の合併症としては、
双胎間輸血症候群、
低出生体重児、胎児奇形、
妊娠中毒症、母体
貧血、胎盤早期剥離、
弛緩出血、臍帯異常、羊水過多、
陣痛微弱、
胎位異常、双児の1児死亡がある。本症例でも、母体
貧血、下腿
浮腫、
前期破水、
陣痛微弱、
弛緩出血を認めている。
母体
貧血の治療には、
妊娠以外の原因による
貧血を鑑別したのち、鉄剤を投与し、必要に応じて
ビタミンB12、葉酸などを併用する。本症例では、鉄剤投与によってHb11 g/dl以上となり
貧血の改善を認めている。
下腿
浮腫は、母児の予後の面からはそれほど重要ではないが、
妊娠中毒症発症の早期発見の面からは診断的価値がある。治療は、まず安静・
食事療法を行う。
食事療法としては、減塩(7g/day)とカロリー制限を行う。
妊娠中の過度の
体重増加は
妊娠中毒症の増悪因子であり、カロリー制限の必要がある。本症例でも、非妊時より20kgの
体重増加を認めており、
妊娠中毒症の増悪因子として作用していたと考えられる。
前期破水は全
妊娠の5〜10%程度に起こるが、双胎はその原因のひとつである。多くの症例では、破水後、半日程度で自然に
陣痛発来するので、経過を観察する。一日を経過しても本格的な
陣痛発来をみない場合、
プロスタグランジンE2で
陣痛を誘発し、速やかに
分娩を終了すべく努力する。
子宮内感染所見が出現すれば、頸管内細菌培養を行った後、
抗生物質を投与しながら、早期に
分娩を終了させる。本症例では破水7時間後に
陣痛発来したが、
子宮内感染を疑わせる所見があり、後述の帝王切開施行の判断要因のひとつになった。
微弱陣痛は、
分娩を遷延させるので母児の双方に悪影響を及ぼすことになる。本症例では、続発性
微弱陣痛となり、後述のように帝王切開の適応となった。
双胎の場合、子宮筋の過度進展や胎盤付着面積の増加などにより、約20%の確率で
分娩後の弛緩性出血が発生するため、
分娩後に
子宮収縮薬投与が必要になる。
[双胎
妊娠の
分娩様式について]
分娩様式は、経膣
分娩と帝王切開の2種類がある。双胎
分娩の場合、帝王切開施行率は27.7%〜54.6%という報告がある(2)。当科の指針(3)による帝王切開適応は、@経膣
分娩困難、A急速遂娩が必要だが経膣
分娩不可、B経膣
分娩が母児に危険と考えられる、B品胎以上の多胎、D
分娩誘発・促進に反応しない、E
性器ヘルペス(初感染で発症から1ヶ月以内、再発で一週間以内)、F
特発性血小板減少性紫斑病合併妊娠で臍帯穿刺により臍帯血
血小板5万未満、G帝王切開の強い希望で経膣
分娩の同意が得られない場合の8点があげられている。また、双胎の
分娩様式については、T)先進児が頭位であるとき、U)先進児が
骨盤位でも以下にあげる双胎の帝王切開の適応に合致しないときは経膣
分娩としている。双胎の帝王切開の適応としては、a)上記の
産科的帝王切開の適応、b)
前置胎盤、
胎児ジストレス、先進児
骨盤位で足位あるいは1500g未満など
陣痛誘発、
陣痛増強の適応が生じた場合、c)
前期破水で
陣痛未発来、d)続発性
微弱陣痛、e)
過期妊娠(
妊娠41週以降)、f)一羊膜一絨毛性双胎、g)先進児が
骨盤位で第二児に対しDiscordanceがある場合をあげている。
本症例は、二絨毛膜二羊膜性双胎
妊娠の患者である。先進児は頭位であり、母体・胎児の双方に経膣
分娩を困難とさせる要因がなかったため、経膣
分娩が予定されていた。破水7時間後には
陣痛が出現し、
CRP0.6mg/dlとやや高値であったが胎児
心音良好で
陣痛進行していたため、経過を観察していた。当科の指針では上記のように、双胎の場合、
前期破水で
陣痛未発来ならば帝王切開の適応となるが、本症例では破水7時間後に
陣痛発来している。
陣痛は、その後、3分間隔にまでなったが、
陣痛出現から24時間後には、子宮口開大6cm、
陣痛間隔10分となり、続発性
微弱陣痛となった。当科の指針では、双胎の場合で続発性
微弱陣痛と診断されたときは帝王切開の適応となる。また、WBC上昇および
CRP上昇のため
子宮内感染も疑われた(
尿検査からは
尿路感染症も疑われるが、排尿時痛、
頻尿などは認めてない)。帝王切開の要約は、当科では、母体が手術・麻酔に耐えうること、胎児が生存していることの2点をあげている。本症例は、術前身体所見・検査によりこの要約を満たしており、患者・患者家族へのインフォームド・コンセントを行ったうえで、帝王切開が施行されている。
文献:
(1)標準産
婦人科学第2版、医学書院、1994年
(2)周産期医学vol.29 no.7、1999−7
(3)
産科婦人科診療指針第4版、新潟大学医学部
産科婦人科学教室、1999年